still dark(監督:髙橋雄祐)を見たら本当にナポリタンが食べたくなるのでしょうか? ※ネタバレあり
序盤は白杖を突きながら電車に乗ったり街歩きする風景です。実際それまでの私生活がどんな風だったのか、ここではあまり分かりませんが、それはこの物語ではあまり重要ではないのかもしれません。この後目的のレストランにたどり着き、「ナポリタンがおいしかったから」という理由で頼み込み、アルバイト見習いにしてもらえます。昨日食べたナポリタンがおいしかったからという理由、料理はできますと断言する自信など、多くの視聴者から見ると深刻な主人公の身の上とは裏腹に、彼の面接風景はどこかのんきで前向きです。そんな彼に懐疑的ながらもチャンスを与える店長の厳しさの中にある優しさと、同い年ということでじゃれ合ったり軽口を遣り取りするケンタの親しみやすさもあり、ユウキはなんとか受け入れられて無事アルバイト生活が始まります。
出勤時にレストラン近くで出会って一緒に店まで歩く道中では、ケンタが歩くためにゴミ箱が邪魔ならどかしてあげたり、急かすわけでもなく「先に行く」と声をかけ、待っているとそれとなく伝える優しいコミュニケーションをとってあげると、ユウキも「引っ張ってー」と無邪気に返事したりします。仕事前は掃除や店内の配置を教えてあげたり、こっそり店内でタバコを吸ったりとお互いの距離が縮まるシーンもあります。詰まる所、イチャコラするシーンですね。
しかし一度仕事が始まると、空気は一変します。はじめは皿洗いも不十分で洗い残しがあったり、お皿の準備も手間取って割ってしまうなど苦労の連続です。試しに野菜のカットを任されても、スピードや精度で見劣りするため駄目出しされます。包丁を扱えるだけでも上達しているのが分かりますが、戦場のような厨房では力不足のようで、ユウキも大きくへこんでしまいます。しかし同じ目線で接するケンタは慰めるでもなく、ユウキも延々と愚痴るという訳でもなく、店長も叱り飛ばすわけでもなく普通に接して、翌日には仕事を与えます。
店じまいの頃は疲れ切った体で掃除をするユウキですが、それでも合間を縫って、ケンタの手伝いもあり、お皿の準備や野菜のカットに取り組み、いつしか店長の及第点をもらうに至ります。この過程の描き方が、本当に無駄がなく、作業を頼まれて失敗して落ち込むユウキに対して、時を隔てた後、作業を頼んでうまく出来るようになったユウキに気付いた店長がすぐに次の仕事を振る、というだけの描写で多くを語らないところが堪らなくいいです。
そんな中、課題であるナポリタン作りも着実に行っています。少しずつ形になっていくものの、目が見えないこともあり盛り付けどころか正しく皿の上に乗せることもままならないし、疲れでナポリタンを床にぶちまけてしまうこともありますが、その都度ケンタが助けてくれたり、茶々をいれたり、真摯に向き合ってくれたりと寄り添ってくれます。またそれを遠巻きに眺めていただけのような店長も、ユウキとケンタのサプライズバースデーパーティに武骨な喜びをチラ見せして、互いの関係性が深まっていきます。
※ここからオチあり。