エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス(監督:ダニエルズ)は過大評価か正統評価か、どちらでしょうか? ※ネタバレあり

アカデミー賞7部門受賞で今やだれもが知る作品となった「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」ですが、遅ればせながら観させて頂きました。知名度のわりに客席はまばらでした。おそらく140分余りの上映時間が、食事時をまたいでしまう時分だったせいかもしれません。

上映時間のわりにあらすじはシンプルです。コインランドリーを営むエヴリンは、人は良いがつまらない夫ウェイモンド、反抗的な娘ジョイ、痴呆に車椅子と要介護な父ゴンゴンを抱えていつも神経質な毎日を送っていました。ある日、日常の業務に加えて父の誕生日とコインランドリーの納税手続きが重なり大忙しの中、娘は同性の相手を家族に紹介しようとしたり、夫は離婚を考えていたりと問題を抱えながら納税の申告の場に向かう直前で、普段と言動が一変した夫から、たくさんの隣接した宇宙を守るために闘わなければならないことを告げられます。訳も分からないまま別の宇宙の断片的な映像がフラッシュバックしながら、申告は差し戻されて落胆の中帰路に就くのですが、そこでいろいろあってエヴリンは納税の審査官ディアドラを殴り、駆け付けた警備員達を、別の宇宙の性格に一変したウェイモンドが返り討ちにします。そしてエヴリンは別の宇宙の能力を使いながら、同じく別の宇宙の人外の能力を使う登場人物との闘いを余儀なくされます。そして最大の敵ジョブ・トゥパキの存在を知らされ、ジョイやゴンゴンにも別の宇宙の顔が明らかになり、物語はさらに混迷を深めていきます。

様々な賞レースで評価された作品ということもありハードルが上がりがちな本作ですが、そんな前提で見始めると少し勝手が違うと感じます。というのも、万人向けにユーザーフレンドリーな映画になっていないと思わせる箇所が見受けられます。まず冒頭10分くらいで、世界観や人間関係が分かりやすく描かれればいいのですが、誰が誰のことを言っているのか、誰が中心人物で誰がモブなのか、少し分かり難いのではないかと思いました。予備知識があったのでそれなりに理解できましたが、何の情報もなく見た人の感想を是非聞いてみたいところです。他にもLGBTQ的なネタ、猥雑なジョークも多数含まれていて、それらは割と物語には重要であるため厄介です。おそらく日本の地上波向けではないな、と感じました。

また受賞の後押しになっている要因に、作り手や演じ手の多くがアジア人で、アカデミーをはじめとしたアメリカでの定期的なアジア上げの風が吹いたのもあるでしょう。さすがに全てのコンテンツを追うのは現実的ではないからか、このアジア産作品がすごい、と持ち上げられることではじめて興味を持ってもらえるのではないでしょうか。「クレイジー・リッチ!」とかも似た感じかなと思いました。ともあれ、そんな上から目線なお眼鏡にかなった作品が実際に話題的にも、興行的にも結果が出ているものであると思われます。

しかしここでは、露骨なアジア上げや、性的な取り扱い方といったポリコレ要素はあえて触れまいと思います。あくまで映画のストーリーや作り方について感じたことを記しておきます。

※ここからネタバレあり。